断熱等性能—いろんな『ものさし』
“夏涼しく、冬暖かく、快適で省エネな家に暮らしたい―。”
多くの方がこのような暮らしを望み、より性能の高い家を求めるようになりました。それに伴い、多くの工務店やハウスメーカーが、断熱性能を示す指標として「断熱等性能等級」や「HEAT20」といった数値を用い、高性能住宅をアピールするようになっています。断熱に関する知識をお持ちのお客様も増え、当社へのお問い合わせでも、「どの程度の断熱性能なのか」「HEAT20では、どのグレードに相当するのか」といったご質問をいただくことが多くなりました。しかし、断熱性能を評価する指標は一つではありません。一般的に用いられている「断熱等性能等級」や「HEAT20」は、それぞれ評価している性能の中身や考え方が異なります。さらに、私たちが標準として採用しているパッシブハウスの考え方は、これらとは異なる視点で住まいを評価します。つまり、同じ「断熱性能」を語っているようで、実は用いている”ものさし”が違うのです。そこで今回は、私たちが標準としている「パッシブハウス基準」と、日本で主流となっている「断熱等性能等級」「HEAT20」の違いについてお話ししたいと思います。

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日本の「断熱等性能等級」
日本の家づくりは、冷暖房設備のない時代から、吉田兼好の『徒然草』にあるように「家は夏を旨とすべし」とされてきました。その影響もあり、日本では断熱技術の発展が大きく遅れ、現在でも世界的に見て断熱性能の低い住宅が多く、「日本の家は寒すぎる」と言われるほどです。断熱性能が極端に低い建物に、各部屋にエアコンを設置してしのぐ―。こうした住まい方は、先進国では決して一般的とは言えず、快適性の面でも、また気候危機対策の観点からも、誇れる住宅性能とは言えませんでした。
近年、日本では気候変動対策を目的に、法改正や補助金制度によって断熱性能向上を促す動きが進んでいます。しかし、日本の建築業界における断熱技術は、依然として先進国の中では大きく立ち遅れています。そこでまず、多くの工務店やビルダーが取り組みやすい方法で、業界全体の意識変革と技術の底上げを図るために設けられたのが、現在の性能表示制度による「断熱等性能等級」なのです。

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断熱等性能等級はUA値による簡易計算
断熱等性能等級とは、住宅の断熱性能を「外皮からどれだけ熱が逃げるか」という一点に着目して評価する、日本独自の指標です。
建物の外部に面する床・壁・天井・開口部などを総称して「外皮」と呼びます。断熱等性能等級は、この外皮からの熱の逃げやすさを数値化した外皮平均熱貫流率(UA値)によって等級分けされます。UA値は、数値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性能が高い住宅であることを示します。本来、UA値の算出には高度な知識と計算が必要ですが、日本では共通の簡易プログラムを整備しています。これにより、多くの工務店がUA値を算出しやすくなり、断熱性能を「見える化」することで断熱強化に取り組みやすくなりました。
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HEAT20のG2・G3と断熱等性能等級
次に、高断熱住宅の分野でよく耳にするHEAT20のG2・G3についてご説明いたします。HEAT20とは、日本の住宅断熱技術の向上を目的として設立された一般社団法人です。同団体では、住宅において一定の室温環境を確保しつつ、どの程度エネルギー削減を抑えられるかという観点から、独自の評価指標を定めています。
この評価指標では、地域区分ごとに「室温環境」と「エネルギー消費量」に関する基準が設定され、その達成度合いに応じてG1~G3のグレードで評価されます。なお、各グレードには目安となるUA値が示されており、断熱等性能等級との関係を整理すると、以下のようになります。(倉敷市の場合)

なお、HEAT20が示すG1~G3の評価は、個別の住宅一棟ごとに認証を行うものではありません。HEAT20では、一定の考え方や計算手法に基づいた「システム」としての評価が採用されており、その基準は単にUA値のみで判断されるものではありません。実際には、「冬季の最低室温」や「15℃未満となる室温面積の割合」、「平成28年省エネ基準からの暖房負荷削減率」など、複数の条件を満たすことを前提とした独自の評価シナリオが設定されています。しかし一方で、一般的には先程の相関表をもとに、UA値からHEAT20のグレードをイメージされるケースが多いのも事実です。参考までに、クラモクホームズの直近1年間の建築実績におけるUA値の平均は0.217でした。

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パッシブハウスの基準とUA値
最後に、私たちが採用しているパッシブハウス基準について説明します。パッシブハウスとは、ドイツのパッシブハウス研究所が定める、世界でも最も厳しい水準とされる省エネルギー住宅基準の認定を受けた建物を指します。
パッシブハウスでは、住宅全体を一つのシステムとして捉え、年間を通して快適な温度・湿度を保つために、どれだけのエネルギーが必要かを評価します。これは、いわば建物の「燃費」を測るものさしと言えるでしょう。
主な認定基準は、以下の4項目です。
① 年間暖房需要(年間に必要な暖房エネルギー量)
② 年間冷房需要(年間に必要な冷房・除湿エネルギー量)
③ 一次エネルギー消費量(家電を含む、住宅全体のエネルギー消費量)
④ 気密性能(50㎩加圧時の漏気量)
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日本の断熱等性能等級では、UA値という一つの指標で住宅性能がランク分けされます。しかし、UA値だけでは、建物の冷暖房にかかるエネルギー量、つまり燃費性能を正確に比較することはできません。ここに、断熱等性能等級とパッシブハウス基準の決定的な違いがあります。
例えば、UA値の違いを「服の素材」に例えてみます。綿か、ウールか、ダウンか。素材によって服の暖かさは変わります。しかし実際には襟首や袖口等の形状や、日当りの良い場所にいかどうかといった条件によって、体感温度は大きく左右されます。同様に住宅でも、隙間の多さや窓の向き、日射の入り方などによって、同じUA値の家でも冷暖房に必要なエネルギー量は大きく変わります。住宅の省エネルギー性能は、UA値が重要である一方で、それだけでは評価できないのです。
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パッシブハウスの考え方
パッシブハウスでは、ドイツのパッシブハウス研究所が開発した「PHPP(パッシブハウス・プランニング・パッケージ)」を用いて、建物ごとに精密なエネルギー計算を行います。敷地条件や建物形状、開口部の計画、換気方式、日射条件などを総合的に考慮し、その住まいで一年を通して快適に暮らすために必要な冷暖房・除湿エネルギー量を算出します。そのうえで、地球環境への負荷をできる限り抑えた水準が、パッシブハウスの認定基準なのです。
これらの性能を高めるためには、UA値だけでなく、主に次のような要素を総合的に検討することが欠かせません。
① 熱橋(熱が伝わりやすい部位)への対策
② 夏季の除湿を適切にコントロールできること
③ 夏の日射遮蔽と冬の日射取得を両立する設計
④ 高い気密性能による漏気損失の低減
⑤ 熱交換型換気による換気熱損失の低減

項目ごとの詳細な説明は省略しますが、例えば日射の入り方一つをとっても、建物の向きや配置、窓の位置や軒の出などによって、冬の暖かさや夏の涼しさは大きく変わります。また、換気や隙間から逃げる熱の量も、住宅の省エネルギー性能に大きく影響します。パッシブハウスでは、こうした要素を総合的に捉え、数値として可視化することで、本当に燃費の良い住まいを目指します。
今回は、断熱性能を測る「ものさし」の違いについてお話ししました。私たちが本当に望んでいるのは、冬は暖かく、夏は涼しく、年間を通して健康で快適な暮らしを、できる限り地球環境に負荷をかけずに実現することではないでしょうか。そのために必要な判断軸として、私たちはパッシブハウスの手法と基準を大切にしています。この考え方を、住まいづくりを考える上での一つの視点として、少しでも多くの方に知っていただければ幸いです。
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